佐野元春 & THE COYOTE BAND 「COYOTE」@ 赤坂BLITZ & 横浜BLITZ
ほんとうにほんとうにほんとうに待ってた佐野元春 & THE COYOTE BANDのツアー。
http://www.moto.co.jp/live/live_info/info_top.html
レコーディング・セッションメンバー全てのバンド・プロジェクトのライブにほとんど行ってるオレですよ。もうね、このバンドったらね、オムカレーの上に牛丼の具とミートボールとトンカツが乗っかってるようなそんなもう大好物てんこ盛りバンドなわけですよ。『COYOTE』のアルバム、初めて聞いたときから、聞くたびに聞くたびに、ああこれライブで聞いてみたいなあと思って思い続けていたのが、現実になったわけですよ。夢が叶うって人生そうないことだと思うんだけど、これはほんと文字どおり、1bitの狂いもなく、夢が叶った。ああこんなこともあるんだなあ。
で、今回は、会社の同僚のどさんこちゃん(ジャニヲタ←尊敬を込めて、呼んでます)の連日ドーム通いを見習って(?)赤坂BLITZと横浜BLITZと両方行きました。実は、フェスとかでなく2日連続して同じステージをみるのは、音楽では人生初でした(映画とか演劇ではあったけど)。
初日の赤坂BLITZ。ラッキーにもわりと前の方で見ることができました。入場してからずーっと立ちっぱなし、だったけど、そりゃ承知の上。赤坂BLITZ、相変わらずフロアはケータイの電波の入りが悪く、会場に入ってからはなんもできないわ友だちと連絡もとれないわ、でした。でも、会場内にはずっとMotoharu Radio Showの“再放送”がかかってて、ときどき元春の話す声が聞こえてきて、それもでかいスピーカーから聞こえてくるので、一度聞いたはずのその話をぼおっと聞きながら、ステージ上にある機材を「あれなんだろ…」と眺めながら、待っていました。
MRS、その放送会の最後は元春の曲でした。フロアに曲が流れ始めたら、客席のそこかしこからクラップが起こり、ああもう待ちきれないなあ!という雰囲気になって。やがて客電が落ちて、バンドメンバーがステージに現れて、楽器を手にして一息ついたところで、元春がステージに現れました。あんまりスタンディングに慣れていない客層なので、ちょっとどういう乗りになるかなあと思っていたけど、大丈夫な感じで(って何がどう大丈夫なのかわからないけど)、さあーいつでもいいぞー、とわわくわくしながらステージを見つめていたら、
一発目のドラムにガツン!とヤられました。
もう何度も、小松さんの、そこにあるだけの空気を鷲掴みにするような立ち上がりにヤられてきたけれど、この初日の一発目は今までの小松さんドラムの中でもベスト暴力的だった。自分の鳥肌が立つ音が聞こえたよ。このバンドに振り落とされるんじゃないかっていう恐怖のようなものすら感じて、私、普段はあんましないんだけど、気が付いたら、punch the air、でした! こんなの今までの元春のステージになかったよ! そうして重めのギターとベースが次、次と重なって、あっ、深沼さんだ、あっ高桑さんだ、と目で追っているうちに、ステージの中央に元春が。「星の下 路の上」。もう何度も何度も聞いた曲だけど、はじめて聞いたときみたいにどきどきしっぱなしでした。
2曲目が終わってから、これは『COYOTE』の曲を順番どおりにたどっている、と思って、このまま順番通りにやるに違いないと確信しました。だってあのアルバムは、もう、どう組み替えてもあの順番から変えようがなかったし、何よりその時点で、あのアルバムのドラマをライブで演るというのを見てみたい!と強く思ったのです。
ノーナの小松さんのドラムはキラキラしてて、自然と踊らされてしまうようなリズムがあるドラムだなあと思っている/いたのですが、それはTHE COYOTE BANDでも健在でした。でもあの馬が跳ねるようなリズムの下に、どっしりとしたラインがある感じが、すごい最初に小松さんのドラムを生で聞いたときよりも堅牢になった気がしました。軽快なのに軽くない感じ。ハコの大きさとか音響設備が違うからとかそんなんじゃなくて。そして、ノーナ以外のバンドで初めて小松さんのドラムを聞いたときってたぶんメロへのときだったと思うんだけど、その時よりもずっと凄みがある感じがしました。たぶん…、私が初めて聞いたときよりも進化しているのでは、ないだろうか。
深沼さんのギターはたくさん聞いていて、いろんな曲で聞いているけれど、『COYOTE』を初めて聞いたときはこの人まだこんなことができたのか、と思ったものでした。そして、ライブは、あのときの感動が再び!って感じでした。佐野さんがギターを弾いているときも弾いていないときも、元春楽曲のギターの音はこれだぜ!っていうのをもう存分に…って、深沼さんだって佐野さん聞いてたギター少年だったんだもんね…表現しつつ、なおかつ、そうそう深沼さんのギターってこういう音があるよね!っていうのが随所にあって、もう、どきどきしっぱなしでした。期待通りでも、期待と違っても。名前をコールされるくらい長いギターソロもあったし!自分のライブだって、あんな前に出て来てスポット当たってのギターソロなんてやんないじゃん深沼さん!一日目は、鼻息が聞こえるんじゃないかってくらい前のめりの気合いが入っていたけど、二日目はちょっとしたギタートラブルなんかもあったせいか(詳細)一日目よりもこなれてて、余裕を見せたりするところがなんかオトナっぽかったです。
そしてやっぱ、『COYOTE』のアーシーなのに埃っぽくないっていうか古くさくない地を作っているのは高桑さんのベースだよなあと思うのです。こんなに地に足がついた、ものすごく支えている感があるのに、艶のある、なぜかよくわからないけど「今」をすごく感じるベース。どんな変調があっても、ずーっと支えている音。メロディーのあるラインのときも、随所随所できっちりと全体を受け止めるような感じが、すごいなあと思いました。ベースってベースっていうからベースを支えるものなんだろうけど、ベーシストはみんな同じ仕事をしているのに、どうしてこんなに音が違うんだろう!
渡辺シュンスケさんは、『COYOTE』のオリジナルメンバーじゃなくって、でもシュンスケさんがTHE COYOTE BANDでやるよっていうのを聞いたときはほんとびっくりしたけどうれしかったです。今、私の一番好きなキーボーディストだったので! シュンスケさんのプロフィールを良く知らないのだけれど、シュンスケさんはちゃんと音楽教育を受けている人なんじゃないのかなあ。基礎に裏打ちされた、とても安心感のあるテクニックがあるのです。電子楽器なのに耳に心地よいし、声という楽器に馴染む気がするのです。盛り上がってばあーっと音が広がってもちゃんと戻ってくる、収束する、みたいなものがあって、ああゆうのってちゃんとピアノである程度の楽曲を弾きこなした人でないとできないんじゃないかなあ。そしてそれが、『COYOTE』の楽曲にとっても合っていると思いました。
スパムさんは、みんなが自由に駆け回る隙間を拾って繋げているみたい。バンドにとってとても心強いメンバーさんなはずです。
佐野さんは、いつもの佐野さんみたいな気もしたけど、でも、明らかにTHE HOBO KING BANDのときとは違った。このバンドのボスはボスなのだけれど、もっと、なんていうか、かわいかったです。ライブできてうれしいなーーー!っていう感じが、はじけていたような気がしました。それが、いい具合にボスっぽさがなくて、でもバンドを引っ張ってて、ときには引っ張られて、っていう感じで。こういうのはTHE HOBO KING BANDのメンバーとはできないのかもしれない。技術的には可能だけど、それ以外のファクター的にできないんじゃないかなあ。若いとか若いヤツってこうだよな、という感じもするけど、若ぶってしようとしているのではなくて、思わずやっちゃいました、的な、そして誰も口にはしていないんだろうけどみんなちょっとずつそこ確信犯的なノリ、のようなものを感じて、これってたぶん今日は今日だけだよなー、と思えるものがあって、わくわくしました。ライブに一過性だけを求めているわけじゃないけど、これもライブの醍醐味のひとつであることは間違いないよね。
ライブで改めて聞いて思ったけど、『COYOTE』は歌うの普通に難しいよなあ。よくライブで歌いこなすなあ、と思いました。佐野さん、声がかすれたり出なかったりしたところもあったけど、それあっての『COYOTE』のライブなんだと思う。でも、一日目と二日目だったら、二日目の方がそのライブ感っぽさに持っていくような演出(演出って言わないんだろうけど、他の言葉が見つからない…)がされていて、さすが!と思いました。
佐野さんは、ギターを持たないで歌うところもあったし、ギターも、アコギも弾いたり、そうそうオルガンも弾いたり、と、佐野元春の魅力盛りだくさんなステージでした。でもそれがあんまし次から次へとーっていう感じじゃないんだよなあ。これが演出のなせるところ、なのかなあ。演出と言えば、深沼さんのソロはももも涙が出るほど格好良くてこれ演出に入れてくれてありがとう!って言いたいくらい(っていうか、今、言ってるw)だったけど、バンドメンバー全員コーラスとかあってもあって、今、このメンバーじゃないとできないことが充分ステージ上にライブされていました。そうだよ、みんな、自分のバンドではフロントで歌ってるんだからね!そんな人をコーラスにすえる豪華なTHE COYOTE BAND。ほんと実現してくれてありがとう!!!
みんな素晴らしいけど、佐野さんと深沼さんのコーラスはほんともう鉄板。これを生で聞くことをどれほど夢にみたことか(泣)。視界に佐野さんと深沼さん二人が並んで立って歌っているのを正面にしたら、もうすっかり覚えているはずの音が言葉が、今日聞いたばかりの音や言葉のように新しく響いた。同時に、その曲にまつわる、体験だとか風景が、もう忘れた記憶のずっと向こうから急激に思い出されたりして、こんなステージの近くでこんな爆音で聞いているのに、ふっと音が聞こえなくなる瞬間がある気がました。「Us」と「夜空の果てまで」は、特に、このフレームで見たかったので、ほんとうにステージが眩しかった。
『COYOTE』の曲がひととおり終って一旦ステージからメンバーがはける演出は、佐野さんならでは。まるでレコードのA面からB面に盤をひっくり返すときの間のように、ゆっくりともう一面へと移っていく。小松さんがTシャツを着替えているのが小松さんぽくって笑ってしまいました。そして、構成的に、B面は『COYOTE』以外の曲をやるんだろうな、と思って、何をやるのかな、と思っていたら、一発目が「僕は大人になった」、 MCも含めてあぁ佐野さんっぽいなあ(って佐野さんの曲なんだけど)と思ったのだけれど、
その次が、「ヤングブラッズ」だったんだよ。
NONA REEVESのみなさんは、月イチでオールのクラブイベントをやってて、みなさんの好きな曲を爆音でかけて歌ったり踊ったり、なのですが、そのときに小松さんがよく、「ヤングブラッズ」をかけるのです。そのときの小松さんは本当に楽しそうで、ほんとに「ヤングブラッズ」好きなんだなあってことが伝わってくるDJingで、その光景も音もとても好きなのです。そう小松さんに聞いたことがあるのです、小松さん「ヤングブラッズ」よくかけますよね、と。そうしたら、小松さん、自分がいかに「ヤングブラッズ」が好きか、ってことを、話してくれて。もうえんえんと。それがまたもうああほんとうにこの人「ヤングブラッズ」好きなんだなあ、っていうのが伝わってきて。プロのミュージシャンが、こんなに素直に、自分が憧れている音楽、音について無邪気に、まあ血中アルコール濃度がちょっと高めにせよ、話すのが、ほんとよくって。「ヤングブラッズ」のしーたかさんのドラム、しーたかさんみたいに叩けるようになりたいぜーっ、って、言って。
ああ、言ってたなあ、言ってたじゃん、その小松さんが今、「ヤングブラッズ」叩いてるよ!今!目の前で!
私、曲聞いて泣くってことが実はほとんどないんだけど、こればっかりは泣けました。涙が出ました。なんだよー、小松さん、すごいかっけーじゃん、なりたいぜーじゃなくって今なってるじゃん、っていうのと、その「ヤングブラッズ」大好きな小松さんのドラムで佐野さんが歌う「ヤングブラッズ」が聞ける日がくるなんてこと、想像すらできてなかったです。それが、ここに。これが泣かずにいられるかよっ(泣)
「ヤングブラッズ」だけじゃない、後半の曲なんて、ステージの上にいるキミらもコッチ側で聞いてたでしょ、かつて。「ダウンタウンボーイ」とか「アンジェリーナ 」とか、バンドキッズだったらコピーしたでしょ? それが、今は、ステージの上で、ライト浴びて、佐野さんをサポートしているなんて。こんなに近くだけど、コッチ側からいくら手を伸ばしても手の届かないところで、誰にでもできることではない仕事をしている。なんなんだろうなこれ。とても遠いような寂しいような、それでいてとてもワクワクするような。どういっていいのかわからないけど…、今まで感じたことない、サイコーな気持ちでした。
私の夢は覚めないまま、19曲、演奏を終えて、佐野さんはいつものように客席にマイクを向けてステージから去っていきました。ステージから去って行く人を見送るのが、こんなに切ないことだ、なんて、今まで思ったことなかったです。明日は横浜があるとわかっているときでも、辛かったです。この奇跡と切なさってこんな味だったのか、なんて思いながら、ホールから去るのも去りがたかったです。