佐野元春 & HKB TOUR 2008「SWEET SOUL, BLUE BEAT」@神奈川県民ホール

私はいつから佐野元春を聞いているかって? そうだなあ、はじめて佐野元春のライブに行ったとき私はまだブラジャーをしてなかったね。

この日は北風が強く吹く日でとても寒い日でした。その寒い中、神奈川県民ホールの外にずっと、並んで開場を待っている人たちの列がありました。私も黙って列に並びつつ当たりを見てみると、ここんとこ私が行った他のアーティストのライブと比べて、明らかにオーディエンスの平均年齢が高い感じで。あと、年齢差っていうか、お母さんに手を引かれているお子様から、自分の父親よりも歳上な感じのおじさままでいらっしゃいました。今日はなんだか違うなあ…もうそれだけで心臓のbpmが上がってしまいました。そして、久しぶりに会う人に会って、元気だった?最近どう?なんて話をしたり。

あと、圧倒的に男性の方が多かったです。これも、最近私が行くライブと比べて珍しかった。男子トイレに長蛇の列、でした。ふつうと、いつもと逆でした。




今回のツーアは、佐野さんの“盟友”ホーボー・キング・バンド(HKB)の面々とのツアー。去年は佐野さんはアルバム制作年でライブを全然やらなかった。アルバム「COYOTE」がリリースされてからその年の終わりごろテレビに出演したときに、スタジオで演奏、っていうのはやって、それはテレビで見た。そのスタジオ・ライブのメンバーは「COYOTE」製作メンバー+αなメンバーだった。つまり、今回のツアーのメンバーとは、両方に参加している人はいるけど、基本、違うわけです。ツアー・タイトルも「COYOTE TOUR」じゃない。…そんなツアーができるアーティストって、何人くらい、いるんだろう、今。

私は、できるだけ、他の街でのライブの様子を聞かないようにして今日に望みました。それは、とてもとても大変だった!けど、いやあ、そうした甲斐がありました、あのオープニング! …いやでも、まあ、セットリストくらいはチラ聞きしていたんだけど。でも、ほんとに曲目をチラ聞きしていただけだったので、「あっ、あのステージの上に居るのは、佐野さん?」と気がついたと同時に耳に飛び込んできた佐野さんの声とウーリッツアーのトーンを聞いたときの驚き、といったら、なかったです。何て言ったらいいのか、何て言って表したらいいのか…あの瞬間の感動。もうそれは、「佐野元春だ」の一言。他にどう言えばいいのかわからないくらいそれは佐野さんだったのです。

最初の4曲が終わってから、ステージに一気にリズムラインが流れて、ギターとキーボードの響きがどわーっと溢れてきた。それを聞いて思ったのは、ほんとうに、こんなことを言うのは佐野さんにもバンドのメンバーにも失礼なことかもしれないけど、でも思ったのは、

みんなほんとうに演奏がうまい!

ということでした。去年は、佐野さんのライブはなかったからいかなかったけど、それでも私は、弾き語りからクラッシックからクラブも合わせると、2007 年は60本くらいライブに行きました。インディーズからメジャーまで、チケットも500円から36,000円(フェスの通し券ぢゃないよ)まで、いろいろなライブに行きました。みんないろいろ、演りたいことがあって、出したい音があって、伝えたい歌があって、っていうなかで、ひとつとして同じものなんてそりゃあるわけなくって、みんな人とは違う自分の表現をしようと思って、やっていると思うんだけど、なんていうか、伝わりきっていないんじゃないかなーと思う事が、時々あって。それが何なのかよくわからないけど、ひとつ言えることは、やっぱり、演奏技術だと、このステージを見て思いました。やっぱり、勢いとか想いとかだけじゃ伝わらないんじゃないかなあ、伝えられないんじゃないかなあ。私には、それぞれの楽器を演奏するその難しさはわからないけど、ドラムとベースってあんなに合うもんなんだ、とか、ドラムとパーカッションって音が分かれずにちゃんとシンクロするんだ、とか、ギターと声が交差するってこんなに自然にできるんだ、とか、サックスの音ってこんなに幅が広いんだ、と、いちいち、驚きと、素直にすばらしい!と感じられました。よくわからないくせにスゴいってことだけはわかる。プリミティブに訴えるスゴさ。佐野さんやHBKのみなさんが聞いたら「何当たり前のこと言っているの〜(笑)」っていうかもしれないけど、でも、それが当たり前だと感じないくらいな演奏をたくさん聞いてきたので、ちょっともう私の中ではそれぞれの楽器に対して演奏者に対して誤解が生じていました。ヤバかった!

ひとりひとりがすごーい目立っているわけじゃないのに。ギターの佐橋さんなんて(ちょっとステキな演出のソロがありました)タタミ一畳分くらいしか動いていないのに、その音は、ボーカルに寄り添うときは寄り添って、ソロのときはすっと前に出てくる。サポートに徹してるようにも感じるんだけど、じいっと佐橋さんだけを見ていると、とてもとても楽しそうで、ステージの誰よりも一番楽しんでいるようにも見えて。あれでどうしてスタンド・プレーにならないのか不思議なくらいです。佐橋さんだけじゃない、他の楽器もコーラスも、ひとりひとりの音が印象に残っています。とくにソロがっていうわけじゃないのに…。

今回特に私が、このツアーの音として印象的だなと思ったのは、ベースとドラムの音、かなあ。こんなふうに刻むリズムがあるんだなあ、できる人がいるんだなあって思いました。ねっとりしていないのに、どこか湿り気のあるグルーヴ。あれは一体どこからくるんだろう! 静かにわくわくするような音だったです。 R&Bっぽいと言われればそうかも、と思うんだけど、うーん私の中ではちょっと、いわゆるR&Bとは違うんだけどなー。もっと、小気味よい、切れ上がった感じ。それでいて低い熱いうねりのある感じ。
うーんどう言葉にしていいのかわかりません。とにかく、楽曲の懐かしさも相まって、終始ぐっと胸をつかまれているような感じの音でした。

ああ、それにしても、佐野さんのウーリッツァー、私はどこにいたって佐野さんの音がわかるって言えるくらい、佐野さんには佐野さんのウーリッツァーの音が好き! ああゆう、切なさっていうか味っていうか、そういうのってスタジオの中で真空パックしたものでないと私たちの耳に届けることができないんだって思っていました。でも、そんなことなかった。今日知りました。今日の佐野さんのウーリッツァーの音は、私がはじめて佐野さんのウーリッツァーを聞いたときの音とまた違うかもしれないんだけど、でも、今日の音も、80年代に聞いた音も、同じ佐野さんの音だってきっぱりと言えます。あれだけ自由に、ステージで再現できる音、間違えようがないよ!

そんなライブができる/ライブ感が出せる、佐野さん、凄いけど、その音を拾ってスピーカから響かしているPA陣なみなさんも、ほんとすごいと思いました。エンジニアとして尊敬します。今日のステージをグレン・グールドが見ていたら、きっと、もうちょっとライブを信じて、コンサート・ドロップアウトしなかったんじゃないかなと思いました。(でも1960年代じゃ、無理だったかな…)

ウーリッツアーの音だけじゃなくて、佐野さんの声も。今日の声も、80年代に聞いた声も、同じ佐野さんの声だ。同じだと思いました。それは、その、科学的に同じかというとそうではないのですが、私の客観フィルターをもって判断するところ、それは同じ、でした。

先日、パリ在住の友人が、シャーラタンズのライブに行って、すごく残念がっていて。彼女は「ひどく落ちぶれていた」と言っていました。「誰のせいってたぶんほとんどティムのせい。とっくにおやじになってるのにいまだ可愛いキャラのままやってるのが信じられない。ライブ中ティムのことをみていられなかった。泣くかと思った」。私も、シャーラタンズは聞いていたし、行ったライブはとても良かったし、で、好きだったので、彼女の言葉にはショックを受けました。

そこから思ったのだけれど、私は、佐野さんはオーディエンスのことをほんとうに信じてくれているんだなあ、と。今日の、このステージ、オーディエンスをがっかりさせようと思って演ることなんてひとつもないんじゃないかな。佐野さんは、オーディエンスがこれに応えてくれる、っていう、佐野さんの答えなんだと思いました。それプラス、
いぶし銀のごとく光っていたのは、オトナの凄み! 後半の8ビートの曲々の始まり、佐野さんがバンドに、手で合図をしてから、波のようにひとりひとりから増幅されてきたグルーヴには心震えました! 走っちゃった、のではなくって、意図して謀って走った、あの凄さは、お子様にはちょっとできないんじゃないかあ。バンドマジックとかライブの勢いとか、そんなものを求めてライブに行く、オーケーまあそいうのがいいっていうのもわかるけど、そうじゃないすごみっていうのがあるんだぜ、って、見せてもらったステージでした。魅せてもらった、だな! それはやっぱり、技術だけではなくて、百戦錬磨のHBKの面々だからこそできたことだと思いました。まあ全てのメンバー、ひとりひとり、HBKでなかったらそこのバンドでバンマスを勤めるような方々ですしね(^_^;) 実際今回のステージは、メロディー隊とリズム隊とバンマスが2人いるような雰囲気がありました。

最新アルバムの『COYOTE』の曲も、数曲演りました。ああ、でも、やっぱり、『COYOTE』の曲は、HBKの演奏の音も大好きなんだけど、やっぱり『COYOTE』のあの音感じゃなかった。やっぱりCOYOTEの面子で『COYOTE』のライブが聞いてみたいなあと思ってしまいました。あれがライブで演奏されると、どうなっちゃうんだろう、考えただけでどきどきしてしまいす。ああ見たいなあ…。

昔の曲を聴いて、はじめて佐野さんのライブに行ってこれ聞いたなあ、とか、友達とバンド組んでいたときに練習したなあ、とか、ちょっと自分がDJする機会があったときにかけたら会場が盛り上がったなあ、とか、いろいろ個人的な思い出を思い出すと同時に、今、この会場に、2008年2月17日にたしかにいるんだってことが、感じられた。そんな体験って、たぶん、音楽でしかできないんじゃないかなあと思います。あと何年かしたら、私も今の佐野さんの年になる、そのとき私は、佐野さんみたいに、ちゃんとオトナしていられるのだろうか…私はいつもそう思って佐野さんを見ていました。佐野さんの言葉を聞いていました。今の私は、佐野さんがデビューした歳をとっくに超えてしまっているけど、あのときの佐野さんにすら、私は追いついていないんじゃないかな、と思います。いやその、努力はしているんだけど。いつもその時は、これ以上できないってくらいもがいているんだけど、ちっとも進めないのです。ますます水は空くばかり。佐野さんだけじゃない、私より一年くらい、先の人も知っていて、いつもその人の誕生日が来ると、私はあと一年で、今日のこの人のところまで行けるのだろうか、と、思うのですが、いつもいつも、やっぱり、私は届いていないのです。

でもだからと行って、諦めてしまうわけにはいかないんだよね!

ほんとに、ほんとに凄いライブでした。今まで佐野さんのライブに行った事がない人にも行って見て聞いて欲しいライブだと思いました。そう、ロックってこういうことを言うんだ、ぜ!