佐野元春 & THE COYOTE BAND 「COYOTE」 @ 神戸チキンジョージ

おい誰だ、今日の公演のことを「追加公演」だなんて言ったのは?

確かに今日の公演は、これまでの全公演が発表された後に発表されたしハコのキャパも他のに比べたら全然小さいものでした。でも、今日の公演は決して追加公演なんかじゃなかった。このツアーに必要な、これをもってこのツアーを終了を告げる、THE FINALな公演でした。



東京を出てきたときは溶けるような暑さだったのに、神戸に着いたらもう日も暮れかけていたせいかとても涼しくなっていました。いい風も吹いていました。

三宮の街は、私の記憶にある三宮の街ではなくもうすっかり普通の街でした。それどころか、ドンキも王将も鳥貴族もスパゲティーの五右衛門もあって普通に東京のどこかと変わらない感じすらして。この街ならではのことしなくちゃ、となんか思って、ライブの前に生田神社に行ってみたりしました。

一度来てみたかった!のチキンジョージは、建て替えたばかりですよーっていう面影をまだ残しており、きれいで、神戸=オシャレ、という私のステレオタイプにしっかり合致したたたずまいだった。いや、ほんとはもうちょっと雑然としててほしかったんだけどね。なんたって、名だたる西出身の先輩バンドの数々が演ったハコだからねえ。いっちばん先に思い浮かぶのはルースターズかなー。

チキンジョージは、基本コンクリ打ちっぱなしのインテリア。地下なんだけど、天井は閉塞感ない程度の高さ。ステージの奥行きは普通。広さは、シェルターやQueよりはでかいけど、クアトロやLIQUIDROOM、UNITなんかと比べると全然小さかったです。そんなに押し合いへしあいするほど入れてなかったので、350くらいだったかな。ノーナやメロヘやGHEEEを見るときは、このくらいのハコだけど、佐野さんをこのサイズのハコで見るのは、たぶん…ルイード以来だと思います(佐野さんもMCで言っていたしね)。つまりもう何十年前だ(笑)? このツアー、ライブハウスツアーと呼ばれてはいたものの、1000オーバーのところばかりで、私にとってライブハウスっていうのはむしろこのサイズ、この規模のこの質感のライブでした。ZeppやBLITZはスタンディングだけどやっぱホール、だよなあ。でもこれじゃ、他のところとサウンドも違うし照明も違うし、果たして今回のツアーの体が再現できるのだろうか…と思ってました。チキンジョージの中に入ったときから、もう、このツアー通してステージの後ろに飾ってあったタペストリーはそんなに天井高くないからステージの後ろに飾れなくって入口のところにかざってあったし、客入りはMRSじゃなかったし。

私は、音をちゃんと全体で聞きたいな、というのもあって、まあ整理券の番号もあんまりよくなかったんだけど、真ん中のちょうどミラーボールの下あたりで心持ギター寄り、なところにいました。そうしたらもう前の人でステージに何がおいてあるかなんてわからなかったです。ちゃんと高さがあるもんじゃないもんね。でも、もう、すぐそこにマイクスタンドが、ギターの踏みものが、ドラムセットが、キーボードが!他のところで最前で見ていたのよりも全然近い!

やがて時間になって、客入り曲にすっと被るようにしてオープニングの曲が始まると、どっちかっていうと男性客の方が多いフロアーに「うおおおおおお!」という怒声が響きわたりました(笑)。最初にバンドメンバー登場。わー見えない。高桑さん以外は(笑)。バンドメンバーそれぞれが、手を伸ばして2〜3歩あるけば届くようなところに、いる。これは高桑さん深沼さん小松さんシュンスケさんにとっては「ホーム」な間合い。でも佐野さんにとっては「アウェイ」な感じじゃないだろうか、だってすぐそこに客ががーっと並んでるんだよ…。どきどきしながら佐野さんの登場を待ちました。

佐野さんが登場すると、ひときわ怒声が響きわたります。佐野さん、サングラスしてました(笑)。そしてその怒声をバリっとドラムが打ち消して、ベースとギターのリフが畳みかけるように続く、「星の下 路の上」!

やっぱり、サイドにあるスピーカーよりも、ステージ上にあるモニタ含めたスピーカーからそれぞれの直音がまっすぐフロアーに刺さってくる。これだよこれ、ライブハウスは!高桑さんのベースは!深沼さんのギターは!ドラムのバスがベースの音が腹に響く。ギターが腕の皮膚に刺さる。これだ、この感じ、私が初めて佐野さんを見たとき聞いたときもこんなんだった、そして今日の佐野さんは、

2009年の佐野元春はすごかった、と、この先ずっと忘れられないだろうパフォーマンスを見せてくれました。

こんな小さなハコでほんとに人の隙間からしか佐野さんの姿が見えないのに、声ってすごいね、存在が浮き上がって押しよせてくる。オーラっていうのとまた違う気がする。声がかすれようがマイクがぎぃんとハウろうが、その前に生声が飛んでくるようなハコで、佐野さんはただ、そこに居て、今日この瞬間の100%だった。どの公演だって100%だった、と思うんだけど、事実自分が見た他の3公演はどれも100%だったけど、…どの100%も違うんだよなあ! 今日も、違った。何がどう、って、うまく説明できないんだけど、ひとつひしひしと感じたことがあった。佐野さんはほんとにこのバンドメンバーのみんなと演奏するのが好きで心地いいんだ、ということ、それから、今日が、今までツアーしてきた中の、最後の公演であることに、自覚的である、ということ。そんな気がしました。

こないだのZepp Tokyoでも、高桑さん深沼さん小松さんシュンスケさんの演奏は、それぞれの個人のバンドやプロジェクトのサウンドに近いものになっているなあと思いましたが、今日は間違いなく、外的要因がもう、いつものまんまで。サウンドはもとより、アクションなんかも、あーそれGHEEEの人っぽいー、とか、巻き毛のキリンの人っぽいー、とか、そんな瞬間がいくつもありました。

もともと、ライブハウスでやったらハマるんじゃないかと思っていた「ヒナギク月に照らされて」、今日のが間違いなくツアー中ベストだった! 深沼さんのソロの切れがどんどん凶暴になっていく。いや、GHEEEのときはもっと凶暴だからね…、む、いや、凶暴の質が違うかも…。「裸の瞳」も。シュンスケさんの鍵盤の音とベースの絡みが、直に聞こえるのが、ジャズのセッションみたいな細分化されたグルーヴを感じた。それがまた全体にすっと溶けるというか馴染んでいくのが、また、イイ。

COYOTE』の中で一番好きな曲、「Us」の演奏が始まったとき、ああもうこのメンツでこの曲を生で聞けることってないかもしれない、と思ったら、もうほんと切なくて、一言も聞きもらすまい、歌いもらすまい、と思ったのに、演奏がほんと、すばらしくて、後半は胸を押さえながら聞いていたような気がします。「Us」と「夜空の果てまで」、あのコーラスがライブでできるのはもう私にとっては奇跡に等しいよ。目の前で、ほら、奇跡が起こっているよ、そんな感じ。

まあとにかく人はぎゅうぎゅうで、湿気もすごかったから、か、「壊れた振り子」の出だしのギターの音が私のような素人が聞いても落ち着いていなくて、え、あれ…、なんて思っていたら、佐野さん、弾くのをやめてしまいました。バンドも音を止めて調弦をするけど、定まらない。で、一旦ローディーさんに楽器を返しました。そうしたら、高桑さんが小松さんが、薄くリズムを入れて、即興で弾き始めて、佐野さんもMCをはさんだりして、それが、ちょっとのテレみたいなものと、でもさすが佐野さん!な堂々としたMCと、即興にしては素晴らしすぎる演奏と、で、トラブルはどきどきしたけどわあなんかいいもん見たー!と思いました。このあとデカいソロを控えていた深沼さん、なんかちょっともどかしそうにおちつかない風だったなあ(笑)。や、でもその後のソロはもうキレキレでした!正面からぐいぐい押すようなソロ。わりと男性客多めなフロアーは怒声に包まれました! すげっ!

「コヨーテ、海へ」では、ステージの後ろと、右上のはりのところに、オルガンを弾いている佐野さんの姿が映し出されました。佐野さん、何度も「後ろのほうの人、見えてる?」って聞いていたっけ。見えないだろうことを配慮してそんな演出を入れたんだなあ。このときスクリーンに映った佐野さんを見て、あ、サングラスしてないなあ、いつとったんだろう、って思いました。それくらい姿見えてなかったから(笑)。深沼さんは、なんとかちょっとずれてがんばって、顔が見えたけど、手元は見えなかったです。でもそのときどきチラ見えする深沼さんがまたカッコよくて(ry

他の公演ほど、きらびやかな演出のない(っていうかできない)照明でしたけど、小さなステージを生かした他では見られなかった演出が数多く見られて、これもまた今夜の特別さ特異さを印象付けていました。光源が近いので、シルエットの出方とか他の公演とは明らかに違うしね。でも、音とともに証明の色が変わるところとかそのタイミングとかは、ツアー通して周到されていたように思います。照明さんも、インハウスの照明さんじゃなくってツアースタッフさんがやったんだろうなあ、と思わせるものがありました。

圧巻といえば、ツアーのほかの公演には、少なくとも関東圏の公演にはなかった、「僕は大人になった」のインプロビゼーションでのバンドメンバーのソロ。一人ひとり佐野さんが名前をコールすると、その人の怒涛のソロに突入して、だんだんと他のメンバーが音を重ねていくのですが、それが、これは誰の見せ場だったか忘れてしまうほどにそれぞれ素晴らしかった!です。「〜とてもいかしてるぜ♪」まで、ひとひとり、全部やりました。高桑さんは、他の人は名前だけだったのに、Curly Giraffeとも紹介されたからかどうかわからないけど、なんとベースソロに自らスキャットを重ねての1人二役ソロ(?)! こんな高桑さん見たことなかった! めちゃくちゃ貴重なもん見ました! シュンスケさんのソロはシュンスケさん真骨頂の、っていうかSchroeder-Headz真骨頂の、ジャズのピアノトリオっぽいソロでした。シュンスケさんのことをよく知らない人にとってはいい名刺変わりになったんじゃないかなあ。小松さんのドラムソロは、引き締まった感とゆるさの共存が絶妙な、ラテンっぽいドラムソロでした。そして何気に、スパムさんのパーカッションのソロに乗せたギターとベースがかっこよかった!です。他のメンバーのソロのあいだ、それぞれのメンバーがすっごく楽しそうに音を乗せているのが、また、見ていて、ほんと幸せな気持ちになれました。締めは必ず、佐野さんの、お決まりのポーズだし(笑)

「ヤングブラッズ」のギターも、今日は切れてたなあ。ギターと鍵盤の絡みが、あれこんなんだったけ?と思うくらいかっこよかった。そして、いつにもまして観客大合唱。っていうかね、あれくらいのハコだと、同じ空間にいる人の声が必ず聞こえるんだよね。誰かがかけ声をかけたり、クラップを入れたときに、観客全員にそれが伝播するその具合いは、小さいハコは面白いです。あちこちから音が跳ね返ってきたりマイクがハウったりというリスクはあるけど、あのステージの近さや足から伝わってくるベース音、会場中の人びとの挙動や全て伝わる一体感は、デカいハコにはないもの。

「アンジェリーナ」で、深沼さんと高桑さんが前にぐわーっと出てきて演奏するとこ、もう音に手が届くかと思った。今までずっと、ステージの上、見上げるような高さのところで、足元まで見えるようなところにいるのを見ていたので、それにほんとに演奏すごいし、だったので、やっぱりみんなすごい人で遠い人たちなんだなあ、と思っていたけど、いや今日の演奏もほんとすごかったけど、音の刺さり方とかが私の知っている感じで、遠くにいっちゃっていた人が戻ってきたみたいなそんな感じがしました。それは同時に、この奇跡のようなツアーがほんとうに終わるんだというのを感じさせました。今日は「黄金色の天使」の歌詞が、いつにもまして響いたよ…言葉にできない、と、思いました。

いつもよりちょっと長めの、終りのMC。フロアーの方にマイクが向けられても、誰もが去りがたく、終演のアナウンスが流れてもみな動けなくなってしまったかのようにそこに居続けました。鳴りやまない手拍子と拍手と、名前を呼ぶ声と、ホイッスルと。2度目のアナウンスが流れてからやっと、フロアーにざわっとした雰囲気が戻ってきたくらいでした。

冗談で俺フェス、なんていっていたけど、私にとってはほんと夢のバンドだったです。あんなに始まるのを楽しみにしていたツアーなのに、もう終わってしまっただなんて信じられないです。

今でもまだあちこちに刺さった音が痛いです。まだあの音が耳から離れなくって、どきどきしています。そして、ほんとに、さびしいです。


セットリストは他と変わらず、なので、最後に載せておくとします。

  • 星の下 路の上      
  • 荒地の何処かで        
  • 君が気高い孤独なら
  • ヒナギク月に照らされて            
  • 裸の瞳                 
  • 折れた翼      
  • 呼吸                
  • ラジオ・デイズ            
  • Us            
  • 夜空の果てまで
  • 壊れた振り子
  • 世界は誰の為に
  • コヨーテ、海へ
  • 黄金色の天使

アンコール1

アンコール2

  • 約束の橋
  • アンジェリーナ


追記(神戸→東京の新幹線の中で思い出したこと):

チキンジョージでは、佐野さんのニースライドは見られませんでした。当たり前か(笑)でもそのステージの狭さ故=動き回るところがない故、佐野さんが他のメンバーにちょっかいを出す…もとい、絡むシーンが他の会場より多く見られました。シュンスケさんと佐野さんのツーショットなんて、お父さんと息子っぽかった。一緒にピアノを弾くお父さんと息子の図。「世界は誰のために」で、佐野さんと深沼さんがひとつのマイクに顔を寄せて歌うなんていうシーンもあって、それはもう視覚的にも聴覚的にも持ってかれました(#'_')。

アンコールの最後に佐野さんは、ステージ向かって右手にあったモニターアンプ(だったかな、何せ足下見えてなくて)に登って「これで見える?」。お客さんの男性が「見えへんでー!」とか言っていたから、かな(笑)