河出書房新社 世界文学全集

河出書房新社の創業120周年記念企画として世界文学全集が刊行されるそうです、が、これが“世界”“文学”“全集”の名を冠するにはあまりにもステキに偏りすぎている件について。

http://www.kawade.co.jp/sekaibungaku/

まず、全集の編集委員池澤夏樹氏、ただひとり。池澤夏樹=個人編集となっているのです。この“世界”って、世界の国々のという意味だけではなくて「世界とかいてオレと読む」っていう意味かもしれないと気が付きました。オレ文学全集!

しかも、24巻中初訳が4本も入っています。普通「世界文学全集」というと「誰もが知っているべき古典」だとか「広く周知されてる/いるべきもの」などが網羅されている的意味があるような気がするのですが、まだ誰も日本語で読んだことのないお話もこの世界文学全集には含まれるわけです。そんな世界文学全集があってもいいのかー! この世もまだまだ捨てたもんじゃないです。

そしてこの世界文学全集全24巻のトップバッターは、J.ケルアックの『オン・ザ・ロード』です。え、それって『路上』ではないの?…なんとこの世界文学全集、1巻目に新訳をぶつけてきました! しかも役者は、もとい、訳者は、青山南氏! 

路上 (河出文庫 505A)

路上 (河出文庫 505A)

この『路上』だけれど、訳者の方には申し訳ないけれど私は『路上』は好きではない。どこかケルアックがこのお話を書いた=ケルアックが生きていた時代の空気感が伝わってこないのだ。『On The Road』には、その時代の流行言葉や、仲間内で使っていた隠語や、そうそのころfreaksとかって言われいたんじゃないかな(訳すなら「基地外」かw)な人たちしか使わなかった、つまり辞書には乗っていないような単語が、ごろごろと、それこそビートを刻むように出てくるのだ。いえーい!

しかしそれはしょうがないことだったと思う。『路上』の翻訳者の福田稔氏は、非常に全うな文学者さんなのだ。『路上』に登場するような言葉がライブに使われているような現場に居合わせたこともないし、基地外たちとも交流を持ったこともないだろう。しかしそんな全うな人が、当時、『路上』のなんだかすごいぞコレ!っていう空気を嗅ぎ取ってガチで取り組んで『路上』の邦訳を世に出した、ということは、それだけで価値がある仕事だと思います。『路上』の原書を読むことがハードルが高かった人に『路上』が手に届くものにしたこと。『路上』を日本語で読むことによって日本独自のヒッピー文化やアンダーグランド・カルチャーを育むその手立てになったこと。そして、後に『路上』の原書を読んだ際に、原書の、言語と言葉の持つ強さに打ちのめされる機会を与えてくれたこと。福田稔氏訳本がなかったら有り得なかったことだと思います。

初めて『路上』を読んだ。次に原書で『On The Road』を読んだ。アーカイブズでケルアックが『On The Road』を朗読しているのを聞いた。そして今『オン・ザ・ロード』が待っている。私はこの本に何度も恋をしている。恋する機会を得ている。それって幸せなことだなと、思います。英語がネイティブでなくてよかった!とすら思います。

お金があったら全館予約一気買いをしたいのですが(´・ω・`) 特にお気に入りの数巻だけ購入して(目安は12000円)、残りは近所の図書館にるクエストして、図書館に入れてもらおうと思います。

(しかし文庫本の『路上』の表紙のデザインは、出版関係の事故ではないかと思います。)

(しかし『オン・ザ・ロード』、発売日11月8日にして、6日にはAmazonで既に「現在在庫切れです。この商品の再入荷予定は立っておりません。」だって。どゆこと?!)



P.S.新聞に載っていた推薦文より:

ケルアック「路上」の新薬から始まる、と聞いただけで、この全集自体の持つ旅路に胸が躍る。---江國香織
一個人の情熱に貫かれた、編者の顔が見える世界文学全集。新しさはかならずしも価値ではないが、この新しさは確実に価値である。---柴田元幸

こ、これだけでもうぐっときました!



P.S.『On The Road』を読んだときにひじょーに役に立った辞書。Alt.Cultureの方は今や絶版っぽい。そんな…早すぎやしませんか? ま、辞書は辞書でもナマモノなんだけどね…。

Nazs Underground Dictionary

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Alt. Culture: An A-To-Z Guide to the '90S-Underground, Online, and Over-The-Counter

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