Home Baked Discs

gamme2007-08-04


先月末買ったCDのうち、2枚、いわゆる「手焼き」というものがありました。正確には、1枚はCDのオマケに付いていたDVDなのですが。


その1枚は、GHEEEのアルバム『GHEEE』のTower Recordでお買い上げ特典のおまけDVD。予約特典かなと思っていたのですが店頭売りでもあったみたいです(ただし在庫限り)。

そのおまけDVD、手に取ってみてビックリ、内縁の透明な部分(あそこなんて名称なんでしょうか)のところにimationって書いてあるじゃあないですか。え、これ、市販のブランクDVDにプレスしたんですか...ってことは自家製?! 自家製っていうか工場でプレスしたものではなさそう。ラベルの印刷もよくみるとインクジェット風に滲んでいます。

収録されている映像は、アルバムから4曲分のライヴ映像。フルではないので、4曲分で15分もない感じ。オープニングタイトルは一応程度にあったけど、クレジットもエンドロールもない。映像レベルはお父さんの「ホームビデオ」レベル。資料映像をちょっと編集して出しました、という感じかなあ。

しかし...この映像が確信犯的なヤバさなのです。これ見たらぜーったいライヴに行きたくなる。CD聞けばわかるけど、収録されている4曲ともちょーどいいところで切れている! ああここからがいいところなのに!ってところで。ある意味ちょっとヒドいです(笑)。加えて、不自由で行き届いていない映像。CDのジャケットやインナーの写真の、カチッとしたスタイリッシュさから一転、隙が有りまくりで粗野で不完全で。

もう1枚は、ヒント親父ことsuzukisukiさんのCDR。まず、Cordeのblogにて、鱸さんがすごい音源を持ってきた、という書き込みがあって、その翌日、それを売り出します、との書き込みが。その店頭ポップの写真を見て「これは聞かねば!」と思ったんですよ。だって、猫が蛇を踏んづけているんですよ! その蛇がご挨拶しているわけですよ! その頭上にはお天道様ですよ! 何故???? ああでもそれが鱸さんの音楽なのです(自分で言っててわけわかっていません)。ええと、もうちょっとまじめには...「ヒント親父」は『Ozma』で一番好きな曲だったので、あの質感だけ抽出拡大された音源だったらもう絶対聞いてみたいなと思ったのでした。

アーティストご本人がご自宅にて手焼きし、ジャケットを整えパッケージし、お店に納品したCD。こちらはTDKって書いてありました。25枚限定、はつまり、25枚、ちこちこと、鱸さんがお家で作成したわけです(^_^;)。その様子を想像しただけでジン...としてしまいました。ジャケットと収録曲リストは手書きのコピー(白黒)。火山の炎(赤)は手書き! not カラーコピーってところがまた泣かせます。お店に残っているCDの中で、一番気に入った炎のやつを買いました。中身はおんなじなんだけどね(^_^;)。なんだか風鈴を買ったような気分でお家に帰ったのでした。

で、こんな言い方は変かもしれないけど...1000円だなんて信じられないクオリティーでした。こんな機会に恵まれるなんて、日本の東京に今住んでてよかったとすら思いました。



これからの音楽産業はこれからどうなるのだろうか、と考えている。新しいメディアの登場、販売形態の変化、消費者の消費行動や志向の変化で、音楽産業は今あまりよい状態とは言えない。しかし私は、この世からこの産業が無くなって欲しくないと思っている。音楽なんてあってもなくてもいいものかもしれないけど、私には、なくては困るものなのだ。

私は、私の好きなアーティストが自由に創作活動ができる環境を守りたいと思う。私の好きなアーティストの音楽が、多くの人に聞いてもらえるような環境を守りたいと思う。具体的に、それはこんな環境です、というビジョンはないんだけど...どんなのが良いのか考えている。それから、アーティストのみなさんが創作活動をしていけるようにお金が儲かる仕組みがあって欲しいと思う。作れば作るほど、売れば売るほど悲しい気持ちになるような環境であってはならないと思う。そしてできれば、私は応援しているよ、とか、あれ良かったよ、とか、を、アーティストに伝える仕組みがあって欲しいと思う。今もないとは言えないけど...それを享受しているのはほんとに一部の人だけで、全然充分じゃないと思う。

創作活動を続けてくれなくちゃ、私が困るのだ。もっともっと私をわくわくさせるような音楽を作って未来に届けてくれなくちゃ、私が困るのだ。

GHEEEのおまけDVDは、アスクル価格などだとメディア価格は48円足らず。タワレコが何枚DVDを制作・配布したのかわからないけど、ライヴ動員のプロモーションにはなったのではないかなと思う。9月のワンマン・ライブのチケットは、発売開始4時間ほどで完売した様子。(バンドメンバーのメンツを考えると、ライブハウスのキャパが少々小さいことはさて置いて。)

うーんでもね、タワレコに特典DVDが付くというのを知って予約とか当日買いにお店に走るような人は、もうたいていGHEEEのライブに行ったことがある人で、多分これからも外さずに行く人ではないかなーと思うんだ。アルバム発売プロモーションとCDでヤラれた人が、偶然ライヴ映像見ちゃって、これは何だ?!って思ってライブに行っちゃう動線が確保できてれば面白かったんだけど...。まあ"幸い"なのは、その特典DVDをYouTubeにアップしてくれた人がいるってこと。これで人目に触れる機会はできた。でも、自分の気になるアーティストをYouTubeで検索する人ってどれくらいいるのかなあ。YouTube、タダなんだし、レーベルでもっと戦略的に使えばいいのに。もっと多くの人に届くといいのに。

GHEEEだったら、ビジネスモデルのシフトすら試せたかもしれない、とも思う。プリンスみたいに。ライヴにケミカルがあるバンドだから。でも、そういうこと考えていないから今の姿があるのかもしれないとも思う。むむむ、難しいね。

suzukisukiさんCDは、曲ができた!できたから聞いて!っていう衝動を、リスナーが、あいよ!って受け取れるラインが確保された例だ。そして、賢明なこのレコ屋さんは、お客さんがどんな風にCDを買っていたのかをちゃんと鱸さんに伝えてくれるハズなのだ。それは、25枚ならできる、1000円でできることなのだ。

でも、もっともっと多くの人に聞いて欲しいなあ。東京在住以外の人にも聞いて欲しいなあ。鱸さんがCD焼いてパッケージ詰めしている時間を創作活動にあてることによってもっとたくさんよい作品ができるのなら、その作業をしないで済む方法があるといいなあ。かつ、今回のような、幸せなラインが保てているといいなあ。そんなことってできるのだろうか? 私は、不可能ではないと思う。デジタルメディアやネットはちょっとは助けてくれそうだという具体的な方法が思いつくから。もうそれを試している人もいる。でも、それじゃまだまだ足りないと思うのだ。もっと多くの人が試してくれないと、リスナーに広まらない。もっと多くの人が試す機会を、作らなければ。で、そういう機会を作るのは、誰が努力をすればいいことなのだろうか? アーティスト本人? レーベル? 音楽産業全体? リスナー? それとも全然関係のない誰かが何処かで?

音楽というコンテンツは、その時代に今に、こんなにも素晴らしい輝きを放って私たちに届いているというのに、今自分のいるところからちょっと高いところから俯瞰してみると何やら暗くて重くて、私の好きなアーティストたちはこれからどうなってしまうのだろうと思ってしまう。自分にできることは何かないかなと考えて、自分の無力さを知る。だからと言って何もしないではいられないから、私は、何か、するけどね。そんな私に、時々、印刷面が滲むDVDやサインペンでタイトルが書かれたCDが届き、私は逆に励まされたりする。

ああ、音楽好きで、良かったな、と思う。そして、やっぱり、私にできることは何かないかな、と考える。