北海道 (1)

スキーだのスノーボードだのやっていたくせに、北海道には来た事がなかった。何度かチャンスはあったけど、それを手にすることは結局なかった。それなのに、今、なんでかこのタイミングで北海道に行く事になった。

行く事は、ほんとすごい急に決めた。「行っちゃえばいいじゃないですか♪」的に軽く言われたのが、思わぬ導火線になった。そのとき、いろいろ、出来ないことが多すぎる自分に苛立っていたこともある。できることをほいと目の前に提示されたので、ひょいっとテイクしてみた、そんな感じ。

羽田空港へ行くモノレールの車窓からの眺めが好きだ。この季節に乗るのは初めてだった。川沿いに会社の敷地内に、桜の木がたくさんあってきれいに咲いていた。川面に花びらが散ってたなびいているところもあった。

その前の晩徹夜だったせいもあって、機内では大爆睡。もうすぐ離陸体制に入りますので、と、キャビン・アテンダントさんに起こされて姿勢を戻した。やがて窓の外を雲が流れる感じがして、窓から下を眺めて、驚いた、風景の感じがSyracuseにそっくりじゃないか! 立ち木のエリアと牧草地のエリアの感じ、曇っている空と地面の色、まっすぐな道路。そんなばかな、そんなばかな! どんどん高度が下がって行き風景が仔細に感じられるようになるにつれ、急にいろいろな、忘れていた忘れたいことが思い出された。ちょっと待ってよ、今のタイミングでそれはまずいよ。

目眩と頭痛がした。お客様、だいじょうぶですか、とキャビン・アテンダントさんに聞かれた。はい、と、日本語で受け答えしているのが不思議なくらいだった。

あっそうだ、と思い出して、ちょっとだけ立ち上がって前の方の座席を見た。そして、ああよかったやっぱりちがう大丈夫だ、私だけ違う飛行機にワープさせられちゃったんじゃなかったんだと確認した。機内アナウンスはどこまでも日本語だ。周りから聞こえてくる言葉も日本語だ。空気がからっとしていてひんやりと冷たくても、ここは日本だ、日本の北海道だ。何度も自分に言い聞かせた。