六本木万博 @ スーパー・デラックス

http://www.super-deluxe.com/2010/4/25

急に予定がキャンセルになって行ける事になった「六本木万博」。SDLXには不定期的に行かないとね。中島ノブユキさんのリリースパーティー、だったのかな?本義は。HPを見たら聞きたい人のお名前がたくさんあったので、それで行ってみることにしたのでした。

最初のライブが終わって感想をtwitterにつぶやいたら@が飛んできて、ビックリ! 立ち上がってキョロキョロしたら、とても尊敬する先生 - 私よりも先に生を受けて路を歩いてきた人 - が来ておられました。それからとても楽しい時間が過ごせました。センセイ、どうもありがとうございました。

一番最初はAnyango。初めて聞いたのはSpoon Market '09のときで、そのときはお客さんは立って聞いてて、でもニャティティの演奏をするアニャンゴさんは座っていたので、つまりその楽器を演奏しているのがよく見えなかったのです。今回は手元が良く見えるところに座りました(今日は椅子があった)。ニャティティは、アフリカのカリンバみたいに微妙に輪郭がぼやけた音を出す不思議な弦楽器です。スケールも不思議。

“娘さんたち”の踊りと歌声が生き生きしてて気持ちいい!手足に付けたスズやマラカスの親戚みたいな楽器を踊りながら鳴らすのですが、その音と動きがシンクロして、繰り返され重ねられるところにだんだんとグルーヴが生まれてくるのがわくわくします。バンドとしてはオリジナルにはないドラムを加えているところが特徴で、そのドラムが繰り返しに彩を添えているのですが、個人的にはこの演出が生きるときと生きないときがある気がしました。どれがどれかって言われてもよくわからないのですが…たぶん、好みかと(すみません)。ラストは、娘さんたちが客席にやってきて、一緒に踊ろうと誘ってくれます。私は、マラソンで足首を痛めてしまっていたので遠慮しちゃったのですが、次は踊るぞーーー!

Spoon Market '09のときはちょっと狭いところだったので、今回はちょっと広いところで見れて、音も踊りものびのびしててよいパフォーマンスだったと思います。今度は、青空の下で聞きたいなあ。

(ここでセンセイと合流。)

次は中島ノブユキさんのソロ。アップライトのピアノですが、SPDは独特のいい音が響くので、ここでピアノの音を聞くのは好きです。全コード分のソネットとプレリュードを作曲していて、いまちょうど半分くらいきたところとのことで、その中からF#mだったかな?のプレリュードを演奏したのですが、これは、これ単体ではなくて是非とも他の曲も聞きたい!と思われるようなプレリュードでした。どこかへ繋がって行くような旋律。ちょうど、坂本龍一教授の「schola」のバッハ篇4回が終ったところでもあり、あーこれはどう展開するのかな、とか、この旋律は別なコードでも残っているのかな、とか思いながら聞いていました。そういった意味では実にプレリュードっぽいプレリュードでした。

映画「人間失格」の音楽は、中島さんによるものだと聞いて、あーそういえばピアノだった!と思い出しました。あの映画は、めずらしく、記憶の中に映像と音楽とが分かれて残っていなくって。どのシーンもどのシーンも画と音が一体となっていて映画のワンシーンとして記憶されていました。映像の美しさにすごくよく音が合ってて分ちがたいものとして記憶されていたのです。それって、映画音楽としては完璧なことですよねえ…。改めて映像無しで音楽だけ聞いたら、音楽は音楽で完結した美しさがあって、他の曲も音だけで聞いてみたいなと思いました(家に返ってからiTunesで購入)。

最初の金子飛鳥さんとのセッション。金子さんのセッションっていうと、今まで、激しい感じの曲のものばかり聞いていたのですが、中島さんとの演奏も、つかず離れず高まっていく感じでした。屏風絵を見ているみたいな感じというか…視線を合わさないけどお互いわかり合っている感じというか。演奏が終ったときのしん…としたSPDの雰囲気が、これぞライブの醍醐味!でした。

Salle Gaveauは、確か2回目だったかなあ。あ、でも、メンバーの何人かの演奏を聞いた事があったまででサルガヴォ(と発音)の演奏を聴くのは初めてかもしれません。ドラムレスのクインテット。どのメンバーも実力のある演奏者なので、初めて聞く曲でもぐいぐい引き込まれます。アコーディオンの音が生きるタンゴっぽい曲、ヴァイオリンのソロパートがかっこいいジャズっぽい曲もよかったけど、今日聞いたイチバンは、プログレ!の曲。制作中の呼称が「大仏」だったというのは覚えていたのですが、本当の曲名を失念してしまいました。言われると「あー」と思うほど、大仏っぽい曲だったんだもの(笑)そのベースが素晴らしかった。っていうかベース、全編に渡ってすばらしかった。あんなすごいウッドベース弾きがいるだなんて知らなかった! ちゃんとボウイングができるウッドベース弾きで、堅牢なピッチコントロール。音が途切れるところや、ソロからだれかが戻ってくるときに、ぐっと元のピッチに戻すところが、ひとりだけのリズム担当なのにその役を完璧にこなしていました。

センセイも、ベースのすばらしさに驚いておられました。そしてMCでメンバーの来歴を聞き、目を細めていらっしゃいました。センセイには、若い世代に受け継がれていく音楽が見えられていたようです。残念ながら私には菊地成孔さんを中心としたサークルしか見えないのですが…でもこれからこのシーンを見続けていきたいと思いました。

最後日に、マイア・バルー嬢。彼女が所定の位置に立ってフルートを口にあてると同時に背筋をキンと伸ばすと、周りの空気が一気にマイアに集まります。その瞬間が好き。演劇の役者さんだってなかなかああはできまいよ。始めは、声、音、声、音、と脳が聞き分けているのですが、だんだんとそんなのどーでもよくなってきて、大きな音楽のうねりの中にぼおっと身を任せるように聞き入ってしまいました。マイアさん、パリに帰っていたところ、例のアイルランドの火山の噴火があり帰国の予定が遅れてしまったとのこと。自然がちょっとプチってしただけなのに、人間は大混乱、これは自然から警告かもしれないね、と言って、ギターを紡ぎ出したマイアさん。歌詞と相まって、じっと考えさせられた1曲でした。で、その遅延のおかげで、中島さん金子さんとリハをしたのが昨日だったんだそう。なのに3人の演奏は、うっかりすると寝入ってしまうのではないかというくらい心地よいひとつの音楽でした。ずっと聞いていたい、今晩だけのスペシャルな音楽でした。

アンコールがかかって、ありがとーと言いながらまたステージに出てきてくれたマイア嬢。中島さんと金子さんも呼びますが、楽屋まで音が届かなかったかったかな? するとマイアさんはきっぱりとギターを手に取り歌いだしました。こういう場の空気感を大切にするところとかさすがです。

アンコールに歌われた歌は、音楽についての歌でした。タイトルも「音楽」だったかな? 全く個人的なことですが、その日午前中にほんとにイヤなことっていうかがっかりしたことがあって、ギリギリの時間までこのライブに行こうかどうしようか迷っていたのです。言っても楽しめないかも、と思って。明日は健康診断で夜半から食べてはいけないことになってもいたし。でも、ギリギリで、地下鉄で一本だしな、と思って行く事にしました。来てよかった。午前中に起ったことなんかほんとにどーうでもいいと思えるほど、マイアさんの歌は素晴らしいく、大きかったです。それに、センセイにもお会いできて、私の知らなかった世界の深淵に触れることができたし、中島さんのピアノと金子さんのヴァイオリンの音はいつまでも耳の中で鳴っているし、Anyangoのおねえサンたちの笑顔とか、サルガヴォの波のような演奏とか、ほんと来てよかったと思いました。